イントラネットによる地域限局型医療情報システム

三原 一郎
鶴岡地区医療情報システム委員長


1.はじめに

 すでに前回の当会議で報告したが、当地区医師会では医師会内にイントラネットサーバを置き、各医療機関、医師会、訪問看護ステーションなどを相互に結ぶ地域限局型パソコンネットワークを構築し、患者情報のやりとりを含めさまざま情報の伝達や各種医療情報の提供、また在宅医療24時間連携における患者データの共有化などに活用している。さらに、来年度には医師会内の臨床検査データベースをイントラネットを介して接続し、オンラインで患者の臨床データを経時的にグラフ化して参照できるシステムを稼動させる予定である。

2.システムの概要

1) ハードウエアーの構成:
 ネットワークは医師会内の各部門に配置した10数台のパソコンと、医療機関、訪問看護ステーションなどの70台程度の電話回線で繋がれたパソコンから構成される。うち医師会内の3台にサーバ機能を分散させた。1台は認証サーバ、リモートアクセスサーバ、WWWサーバとしての機能を担う中心的サーバとし、1台はバックアップ用、そしてもう一台はSunのUNIX機で、メールサーバ、DNSサーバ機能を担当する。外部からは、電話回線を利用しサーバに接続し、イントラネットを構成している。
2) ソフトウエアーの構成:
 WWW Serverは Windows NT Server附属のInternet Information Server4.0とし、 データベース(Access)との連携は、ODBC経由でActive Server Pagesを利用し実現した。メールサーバは、前回報告したNTベースのものからUNIX(Solaris2.6)へ移行し、メーリングリストもフリーウエアー としてお馴染みのmajordomoへと変更した。

3.サービスの概要

1) WWWを利用した情報発信
a. 医師会関連行事予定表
データベースとホームページの連携の簡単な応用例。現在の日付以降の行事をソーティングして表示するので、事務員は順番を気にすることなく、データベースに追加登録するだけの作業です済む。
b. 電子伝言板
自由に書きこみができる伝言板で、これもデータベースとの連携例である.医師会から会員への連絡事項、会員同士での情報交換、医療に関する意見や議論などに活用されている。
c. 医療NEWS速報
各種メディアから発信されている医療情報をデータベース化して提供している。毎日アップデートされるので、最新の医療情報をここをみるだけで入手できる。
d. 日医インターネットニュース
日医のホームページから転載して掲示している(日医の了解済み)。
e. 会員情報検索
Javaで開発した会員情報表示アプレット。Javaとデータベースとの連携には、JDBCではなく、ODBCとASPを利用している。現状ではこの方が速い。
f. そのた
2) メールシステムによる情報伝達、情報交換、情報共有など
3) 在宅患者情報共有システム
 在宅患者を複数の医師が24時間体制で管理するために必要な患者情報の共有を目的とした患者情報データベースである。現在150名の患者が登録済みで、3グループ、10名の医師がこのシステムを利用している.患者情報としては、病名、病状、投薬状況、痴呆の程度や福祉サービスや訪問看護の利用状況など、必要と思われるデータは概ね網羅され、さらに、主治医が往診の度に、患者状態を記載するようにし、最新のデータを把握できるようになっている。なお、患者情報を守秘するために、パスワードの発行を制限し、患者からはコンピュータに登録し、情報を共有する旨の承諾書をもらうようにしている。
4) 医療相談
 新しく地域住民向けに始めたインターネット上のサービスである。医療相談ホームページ(「メディカルパーク」と呼称)から所定の様式にしたがって投稿された質問を当地区医師会のそれぞれの専門医が回答し、ホームページにデータベースとして蓄積、掲載していく形式とした。ある量が蓄積された段階で、キーワードで検索できる機能を追加し、「メディカルパーク」を訪れることで、よく質問される疑問には答えられる、医療相談データベースの構築も目指している。
5) 臨床検査オンライン参照システム
 医師会内の臨床検査センターのデータベースをイントラネットを介して参照できるシステムで、現在JAVAを使って開発中である。既存のネットワークを利用し、臨床データを経時的にまたグラフ化して表示できるだけでなく、他の医療機関からの検査データの参照も可能とする予定である。こうすることで、検査の重複を避けることできるなど、医療機関側のみならず患者サイドにとってもメリットの多いシステムになることが期待される。

4.情報システムが地域の医療に何をもたらしたか

  • 会員、医師会、看護ステーション間での、相互のコミュニケーションが量、質ともに増加し、その一体化に寄与した。
  • 迅速な連絡網の確立した(まだ一部であり、確実性にも乏しいが)。
  • 患者情報の共有化を可能としたことで、在宅医療24時間管理体制の確立に貢献した。
  • ネット上で医師間、医師看護婦間での医療相談(画像などを利用)を可能とした。
  • メーリングリストや伝言板を利用した議論、会議などが可能となった。
  • 医師会内業務のOA化が促進した。
  • コンピュータに対する関心、知識の向上がみられた。
  • 最新の医療情報をup-to-dateに取得可能となった。

5.今後の課題

  • 情報リテラシーの低さ
    コンピュータを使えない、情報を発信しない会員がかなり存在する。
  • メインテナンスの煩雑さ
    多くの会員がトラブルに対応できない.自力でージョンアップできない。
  • 会員数の頭打ち。
  • 病院、保健所、福祉、自治体などとの連携の低さ。

6.おわりに

 昨年から始まった当地区における情報化の推進は、単に医療サイドにおける利便性を増したばかりでなく、地域における医療の質やサービスの向上に少なからず寄与したのではと評価している。まだまだ情報化が浸透したといえる段階ではないが、今後とも積極的に情報化を押し進め、地域医療の向上に貢献できればと考えている。

[全国医療情報システム連絡協議会第15回定例会議(熊本)1998/12/5-6 抄録]