イントラネットによる地域医療情報ネットワークの構築

○三原一郎
山形県医師会情報システム委員(鶴岡地区医師会)


はじめに

鶴岡地区医師会は、山形県西部日本海側に位置する鶴岡市と近辺の5町1村からなる人口約15万、A 会員93名、B会員95名、準会員5名より構成される中規模医師会である。我々医師会は、本年1997年を医療情報ネットワーク元年と位置づけ、積極的にパソコンによるネットワーク化を進めている。まず、4月にインターネット上にホームページを開設し、6月からは医師会にサーバーを配置し、医師会、会員、看護支援センターを相互に結ぶネットワークを稼動させた。さらに、7月からはかかりつけ医推進モデル事業を受託し、サーバー上に構築した患者情報データベースを24時間かかりつけ医制度の側面的支援として活用している。以下、我々のシステムの概要を紹介する。

情報ネットワーク構築までの経緯

まずは、医療情報を含めたさまざまな情報を会員、医師会、訪問看護ステーションで、相互に発信あるいは交換できるネットワークシステムの構築を目指した。そのためには、インターネットに接続することは、セキュリティーの面を含めてマイナス面が多いと判断し、医師会にサーバーを配置した地域型イントラネット方式によるネットワークを選択した。ネットワーク構築にあたり、業者に依頼することも考えたが、我々の希望どおりの柔軟性のあるシステムを作り上げるには、自分たちで自分たちのための使いやすいネットワークをつくるしかないと判断し、プログラムの開発からサーバーの設定まで自前で作り上げた。

システムの概要

サーバーのOSとしては、Windows/NT4.0を、ハードはPC(DOS/V機)、通信プロトコールとしてTCP/IPを採用した。サーバー機としてコンパックのProliantを2台配置し、一台をバックアップサーバーとした。サーバにはリモートアクセスサーバー(RAS)機能をもたせ、マルチシリアスカードを介して、TA3台、モデム2台を接続し、会員や訪問看護ステーションとを電話回線を用いて接続することとした。また、医師会内には数台のパソコンを各部門に配置し、医師会内の情報伝達、医師会内の各部門から会員、看護ステーションとの情報交換も可能とした。

当初、希望会員約20名に医師会が半額を負担しパソコン(DOS/V機)を配布した。会員へのパソコン配布に当たり、業者に協力を依頼し、医師会サーバーに簡単に接続できるように設定を済ませ、また操作を教えた後に設置した。また、同時期にNTTとも協力し、デジタル回線への変更、増設を推進した。ここまでの医師会としての初期投資は約100万円程度(パソコンリース額は除く)である。

提供サービスの概要

WWWサーバーは、Windows/NTに標準装備のInternet Information Server 3.0(IIS3.0)を採用した。我々のWWWサービスの特徴として、データベース("アクセス97"を使用)を中心に据えてさまざまな情報サービスを提供していることが挙げられる。すわなち、IIS3.0に附属の機能である Active Server Pages(ASP)を使い、HTMLにASPを埋め込み記述することで、ホームページとデータベースとの連携を実現させた。

現在医師会サーバーのホームページから提供しているサービスには以下のようなものがあり、ほとんどがデータベースと連携して動いている。

インターネット上の医師会ホームページ:
インターネットに公開しているホームページを医師会のサーバーに置いたもので、こうすることで、会員はプロバイダーと契約することなく、無料で医師会のホームページを閲覧できようになった。
会員検索:
会員情報をデータベース化したもので、会員をよみ、診療科、地域などで検索することができ、検索結果から該当者へ直接メールを送ることもできる。
医師会関連行事予定:
行事予定をデータベース化することで、面倒な行事予定表のメインテナンスを軽減できた。ユーザーが行事をみるときは、現在の日付から日付順にソーティングして表示するので、事務員にとっては予定の順序を気にすることなくデータベースに登録していくだけの作業で済むわけである。このデータベースから、従来ワープロを使っていた会員へ配布していた行事予定表も、データベースから直接印刷できるようになり、業務のOA化にも一役かっている。
電子伝言板:
自由に書き込みができる伝言板で、簡単なデータベースの応用例である。医師会からの会員への伝達事項や会員同士での情報交換、医療問題などに対する意見や議論などに活用されている。
医療NEWS速報:
各種メディアから発信される情報を、データベース化にして提供している。毎日アップデートしているので、最新の医療関連ニュースはほぼ網羅される。検索機能も追加し、キーワードで過去の記事を検索できるようにした。
日医インターネットニュース:
日医の了解を得て、日医のホームページからの転載である。これもデータベース化して活用している。
患者情報データベース:
24時間かかりつけ医体制の基盤となる患者情報のデータベースである。ここには、患者の病名、病状、投与薬剤、痴呆の程度、福祉サービス状況など、多くの情報が登録されている。現在112名の患者が登録済みである。主治医は診療所などからリモートで、患者情報を登録し、さらに、医師や看護婦が往診のたびに経過を追加記載することにしている。関連する医師はいながらにして患者の最新の情報を参照することができるので、グループ診療において有用なシステムになると期待される。患者情報を守秘するために、パスワードの発行を制限し、患者からはコンピュータに登録し情報を共有する旨の承諾書をもらうようにしている。
E-メールシステム:
ネットワーク会員として登録すると、メールアドレスも発行される。メーラーのアドレス帳には、全会員のアドレスを登録して配布し、アドレス帳から選択するだけで簡単にメールを出せるように工夫した。医師会と会員との各種連絡、会員間あるいは看護ステーションとの患者情報の交換などに利用されている。また、メーリングリストもいくつか作成してある。会員全員に配信されるもの、かかりつけ医推進委員用、会長、理事他役員用などである。このメーリングリストを利用して、かかりつけ医とは何か、患者のプライバシーの問題、医療制度の問題などが議論され、また、緊急の議事なども役員会用のメーリングリストを利用して決められている。

サーバーの利用状況

現在、ネットワークは医師会、訪問看護ステーションを含む会員約50名で構成されている。サーバへのアクセス頻度は、7月には1200、8月には2000回程度と増加しており、現在毎日70回程度はアクセスされている状況である。一方、先日行ったサーバー利用状況アンケートでは、メールの利用については、読んではいるものの、出したことがない人が半分以上いるという結果であり、メールの能動的な利用は今後の課題である。会員のパソコン教育として、ときどきサーバーをチェックし、メールを受け取っていない会員や、アクセスのない会員には連絡をとり、やり方が分からないのであれば事務員を派遣し使い方を再度説明するようにしている。

  • 今後の展望
  • 会員数の拡大
  • メールの活用
  • 病院、行政、福祉、保健所などとの連携

まとめ

  • インターネットとは開離した、イントラネットによる地域に限局したネットワークを構築した。
  • サーバーやLANの設定、プログラムなどすべて自前で作成した。
  • WWWでは、データベースを中心に据えたサービスを提供している。
  • メールシステムでは、メーリングリストを活用し、活発な議論の場となっている。
  • 在宅患者データベースを構築し、在宅医療の側面的支援として利用している。

[全国医療情報システム連絡協議会第14回定例会議(東京)1997/11/15-16 抄録]