1生涯/1患者/1カルテを目指した

医療連携型電子カルテシステム「Net4U」

鶴岡地区医師会医療情報システム委員  福原 晶子
同委員長  三原 一郎


1.はじめに(鶴岡地区医師会の情報化の歩み)

 1997年のイントラネットによるネットワーク構築に始まり、鶴岡地区医師会は既報の通り、「在宅患者情報共有サービス」、「臨床検査オンライン参照システム」、「医療機関の機能情報開示」、「オンライン会報配布」、「ペーパーレス理事会の運用」、「理事会議事録の公開」などのIT化に取り組んできた。現在のネット加入率は、約70%(医療機関)となっている。

 2001年、経済産業省の平成12年度補正予算事業である「先進的情報技術活用型医療機関などネットワーク化推進事業―電子カルテを中心とした地域の医療情報化」に採択されたことを契機に、ネットワーク化された電子カルテシステムを構築し、2002年1月以来、約2か月の実証実験後の現在も運用を続けている。このような病診連携のための統合型電子カルテシステムが、地域医療に様々な面で有用であることを実証できたので報告する。

2.Net4Uの概要と特徴

 当地区に構築した電子カルテシステムNet4U(ネットフォーユー)は、the New e-teamwork by 4 Units の略で、4 Units とは「病院?・?診療所?・?訪問看護ステーション?・?検査センター」を指す。また、その読みから、「患者(あなた)の健康のためのネットワーク」とい う意味も込めている。

 本システムはINS64回線を利用したイントラネット下で運用される。すなわち、医師会館内にすべてのアプリケーション、患者データなどを一括して保 管?・?管理する病診連携サーバを設置し、ユーザはブラウザを用いてダウンロードし電子カルテを利用するASP(Application Service Provider)方式である。現在はVPN(Virtual Private Network)を利用しインターネット経由でも利用可能となっており、ブロードバンドの恩恵で、短時間に低コストで大量のデータのやりとりができるた め、さらに電子カルテの閲覧、操作が容易になっている。

 診療情報の共有は、患者の同意の下に、患者が受診した医療機関でのみ許可される。そのため、それ以外の医療機関ではカルテを閲覧することはできない仕組みとなっている。

 Net4Uの特徴は2号用紙を模したカルテ画面に、複数の医療機関の診療情報が同時に表示されることである。この事で、診療医師は特殊な操作をすること なく、従来の紙カルテと同じ感覚で診療情報を共有することが可能となる。また、各種の画像データも簡単な操作でカルテに添付することができる。紹介状作成 画面を利用することで、紹介状のやりとりも簡便に行えるため、各種のデータを参照することによって、より綿密な医療連携を築くことができる。

 医師会直営の検査センターや民間臨床検査会社に提出した検体検査データは、自動的に電子カルテに貼り付く。検査値は時系列で表示され、任意に選択したデータのグラフ化も可能である。

 在宅患者に関しては、従来面倒とされていた医療機関(かかりつけ医)と訪問看護間での指示書、報告書などの各種文書を、簡単な操作で作成、送付でき、ま た記録としてカルテに貼り付けることができるようにした。これらの事で、かかりつけ医と訪問看護師とが、緊密な連携の下に、より質の高い在宅医療?・?在 宅ケアを提供することが可能となった。

 さらに、Net4Uは新宿区医師会で稼働している「ゆーねっと」とも連携機能をもち、新宿と当地区の医療機関との間でも診療情報の共有が可能であり、将来の「生涯/1患者/1カルテ」をも視野に入れた作りとなっている。

3.実証実験

 2002年1月から、23の診療所、中核病院を含む4病院、1訪問看護ステーション、荘内地区健康管理センター(検査部門)が参加し、実際の医療現場で約2ヶ月間の実証実験を行った。Net4U登録にあたり、複数の医療機関で診療情報が共有される可能性があることを患者に説明した上で、同意書をいただいた。

 実証実験期間中に登録された患者総数は2,008名、うち220名は複数の医療機関で診療情報が共有された。その内訳は以下のとおりである。

延べ診察回数 5,942回
項目別の入力数
紹介状 734件
検査結果 448件
画像枚数 235件
処方数 3,820件
訪問看護指示書 60件
訪問看護報告書 29件
訪問看護計画書 31件
訪問看護サマリー 30件

4.実験後の評価

 Net4Uの運用が当地区医師会に与えた衝撃は、予想以上であった。実際に電子カルテ上で、他の医療機関の診療内容を目にした後、「感動した」、「ITを活用したあるべき医療の姿を垣間見た」、「大変だがそれに十分見合うだけの、共有できたときの連帯感、喜び」などのコメントが、メーリングリストに寄せられた。

 実証実験後に事業参加者すべてに行ったのアンケート調査の結果から、各種機能を個別に評価したものを以下にあげる。

1)診療情報共有機能の評価

 診療情報の共有について、89%が有効であったと回答しており、診療情報の共有に関して高い評価が得られた。その理由として、「主病名、病態、投薬内容の把握が治療選択の一助になった」、「紹介状の内容がよりわかりやすくなった」などが挙げられ、病名、処方などの診療情報の共有が医療の現場で非常に有用であることが確認された。

 また、患者側の反応も「双方でデータが共有されるので安心」、「医療への理解というよりも医師への信頼感が深まったような気がする」など、好意的な意見がほとんどであった。

2)放射線検査連携機能(高額機器の共同利用)の評価

 中核病院の放射線科との連携は、「受診回数の減少」、「カルテ上で検査予約が簡単にでき、すぐ患者に連絡できた」などの回答が多かった。患者側の感想として、「検査の待ち時間がほとんどなかった」、「検査結果が早くて良い」など好評であり、検査予約システムとしても非常に有用であった。

3)訪問看護連携機能の評価

 かかりつけ医と訪問看護師との間での連携に関しては、84%が有用?やや有用と回答した。訪問看護指示書や報告書 ・ 計画書の作成や送信が簡単にできること、所見や指示書情報を共有することにより、業務の効率化に寄与したとの意見が多くみられた。

4)電子カルテとしての機能の評価

 操作性では、「処理速度の遅さ」がもっとも問題となった。また、電子カルテとしての機能の向上や、使い勝手の向上などを望む声が聞かれた。セキュリティに関しては、事務員がカルテを見ることの是非、パスワードのみでの運用では不十分、などの意見が見られた。

 Net4Uの実用性については、「紹介、往診依頼、検査予約に便利」、「カルテ管理、保存性がよい」、「重複投薬の予防」、「画像の添付が容易」などが挙げられた。一方、非実用的な点として、「レセコンと連動しないため二重入力となる」、「自院の検査データを入力できない」、「通信費がかかる」などの意見があった。

5.現在の運用状況と今後の展望

 実証実験終了後、ほぼ1年が経過したが、Net4Uは鶴岡地区医師会の医療連携になくてはならないものになっている。特に、診診連携(かかりつけ医と専門医間など)においては、非常に有用である事が多数例報告されている。参加施設は、3診療所が新たに増え、2002年11月末までに約4,200名の患者を登録し、そのうち15?20%の患者情報が複数の医療機関で共有されている。

 実験後、前述したようにVPNによるインターネット経由での利用が可能となり、アンケートにもあった「処理速度の遅さ」「通信費」に関しては改善され、また、民間検査会社の検査データも自動的に取り込めるようになったことから、選択肢の幅が広がるなど、より快適な環境で使用されるようになった。

 一方、本来医療連携の核となるべき中核病院診療科との連携の不備は、依然として続いており、今後もっとも問題となる点である。また、実験後の運用が滞っている施設もある。

 中核病院に関しては、今後電子カルテを導入することになっており、通信環境の改善や電子カルテへの慣れにより、連携がうまくいくようになることを願っている。また、電子カルテとして使うことの敷居が高いと感じている医療機関には、Net4Uを「紹介状作成システム」として使ってもらったり、検査データが自動的に貼り付くことから、まず登録して検査データだけでも利用してもらうなど、ユーザを増やすことが、今後の医療連携の発展のためには不可欠なことだと考えている。