地域電子カルテシステムによる

「1地域/1患者/1カルテ」の試み


電子カルテのネット構築へ

 本年度、鶴岡地区医師会は経済産業省による「先進的IT活用による医療を中心としたネットワーク化推進事業」に採択され、1地域/1患者/1カルテを目指した地域電子カルテシステムを構築しその実証実験を行うことになりました。

 システムのしくみは、デジタル化された診療情報を医師会館内に設置した地域電子カルテサーバで一括管理し、各医療機関はクローズドなネットワークを介して、それを共有するというものです。診療情報には今までの紙カルテと同様に病名や所見の他、投薬内容、検査値、レントゲン写真や内視鏡などの画像データも含まれます。カルテの共有は、患者さんの同意のもと、患者さんが通院する医療機関でのみ可能となります。もちろん、データのやり取りは暗号化され、十分なセキュリティーを確保できるしくみも組み込まれます。

 さて、このようなネットワーク化された電子カルテシステムによる1地域/1患者/1カルテ制が地域医療にどのような利点をもたらすのでしょうか。

 地域医療では各医療機関がそれぞれの機能に応じた役割を分担し、相互に連携しあいながらグローバルに患者さんの健康を支えていくことが求められています。とくに、患者さんの日頃の健康を預かるホームドクターとしてのかかりつけ医と、入院施設や高度医療機器を備えより高度な医療を提供する基幹病院との役割分担は、医療の効率化のために進めなければならない重要な課題のひとつです。かかりつけ医の背後に電子カルテにより診療情報を共有する基幹病院が控えていることで、病院でないといざというときに不安だと感じている患者さんでも、安心してかかりつけ医に通院できるようになるのではと期待されます。

 また、薬の重複投与や飲みあわせによる薬害の防止にも威力を発揮すると考えられます。これはカルテを医療機関間で共有するわけですから同然のことですが、人為的なミスを未然に防ぐ機能を容易に実現できことも電子カルテの利点のひとつです。例えば、ある種の薬にアレルギーがある場合、そのデータを診療情報として入力しておけば、その薬剤を投与しようとするとアラームで知らせることができます。さらに、他の医療機関で行った検査を参照できるため、無駄な検査を避けることが可能となり、医療経済の観点からも有効です。その他、検査データの時系列による閲覧やそのグラフ化、医療の透明化、高度医療機器の共同利用、救急外来での患者情報閲覧など、限られた紙面では書ききれない程のメリットが想定されています。

 ネットワーク化された電子カルテを利用し地域で診療情報を共有するというしくみは、患者さんにとって大変利便性が高く、医療の質の向上に大いに寄与できるものと確信しております。本事業を実験で終わらせることなく、1地域/1患者/1カルテ制を当地区ひいては県全体に普及させ、効率的で安心、より開かれた医療を目指したいと考えているところです。

[山形新聞 <提言> 2001/7/12]